Wedding nursing

その頃、清和のもとにも、一本の電話が入っていた。

清和が、諒一の病室の警護をさせていた構成員からの連絡で、諒一が、男性3人を伴

い病室に戻ったとの報告内容であった。

報告を受けた清和が、清和の右腕と称される、リキと供に血相を変えて急いで病室に

駆け付けて来たのは言うまでも無い事で・・・・

いきなりドアが乱暴に開かれ

「先生、これは一体なんだ!」

荒々しい言葉で諒一に問いかけた清和の目には、ベッドの上でパジャマの胸元を開き

妖艶な姿を曝している諒一の姿が飛び込んできた。

諒一のベッドの周りには、深津DRと、久保田、そして見覚えのある様な男性が一人。

清和がその男性の、素性を思い出すのに時間は掛からなかった。

清和の脳裏には、結婚指輪を買いに出掛けた宝石店で諒一に言い寄っていた男性の姿

が浮かんでいた。確か名前は『結城』とかぬかした奴だ。でも何故そんな奴が先生の

病室に居るのか理解できない清和は、

まず、手始めに深津DRに!

「おい、深津! 今は回診時間じゃない筈だ、先生に何をしている!」

病室内に足を踏み入れるなり、怒り沸騰の清和に対し

「見て解りませんか? 触診をしているのですが!」

深津DRが、含みを込めた声音で答えながら、艶めかしく諒一の身体に触れていた。

「なぜ、こんな時間に触診する必要があるんだ〜!」

「それは、氷川DRが・・・・」

深津DRが答えようとするのを遮る様に!

ドアが再び乱暴に開かれ・・・

「深津先生、僕と言うものがありながら・・・誰を、奪い合ったのですか?」

もの凄い剣幕で、部屋に飛び込んできたのは、

久保田の後輩、医事課のお荷物?『加倉井早紀』であった。

加倉井は大手芸能プロダクションに所属していた程の、美貌の持ち主で『王子さま入

りの女顔』だが、長身なので軟弱なオカマにも見えない。

紺色の背広を着ていても、ファッション雑誌から、抜け出して来たのかと、見紛う程

の容貌をしていた。

いきなり飛び込んで来た、加倉井に

「お前は、誰だ!いきなり部屋に飛び込んできて!」

清和が言うのは、もっともな事だが相手が悪かった・・・

「僕の、僕の、深津先生が! 僕と言うものが有りながら、美形の男性を抱き抱えて何処かに連れ込んだって、ナースさん達が噂していたんだ。だから僕、深津先生を取り返しに来たんだ!」

この加倉井くんに常識を言っても始まらない・・・

「なに、お前の深津先生だって?」

「そうだよ!」

大きな声で言い切った加倉井と、その発言に冷や汗を流している、深津DRを見据え

「じゃ〜ぁ! そいつを、しっかり捕まえておけ!」

清和は厄介払いが出来るとばかりに、加倉井に言いはらった。

「そんなの、解っているよ。深津先生、誰を、連れ込んだの?」

辺りを見回しても、深津の連れ込んだであろう男性がどこにも居ない?

目を丸くして考え込んでいる、加倉井に

「おい、深津を早く連れて行け! 目障りだ!」

清和の暴言に

「言われなくてもそうするよ、深津先生覚悟してね!全部白状して貰うからね!」

加倉井が深津DRを引き摺って、部屋から出て行こうとしている所に、

廊下を走る荒々しい足音が、聞こえたかと思った瞬間!

三度乱暴にドアが開かれた・・・・

「薫くん、無事ですか?」

顔色は失せ、慌てた感のある、芝DRが息も荒く飛び込んできた。

ナース達に、『深津DRと、それに勝るとも劣らない美形男性に抱き抱えられて、特別室の方に連れ去られた』と、ナースに聞かされた芝DRが、心配して薫を探し回っていたのである。

「大丈夫かって・・・何が?」

こちらも・・・諒一に負けない天然さんのようである。

己が飢えた狼の前に立っているなんて、考えてもいないのであろう。

「ナース達が、薫くんが、物凄い美形の男性に、お姫様抱っこで、何所かに連れ込ま

れたとの話を聞いたのだが!」

芝DRの憤怒全開の言葉に

「えっ〜! 深津先生が連れ込んだのって、久保田主任なんですか?」

加倉井の台詞に

「何だって! 薫君を抱き抱えて連れ込んだのは、深津DRなんですか!」

怒髪天を突く芝DRを尻目に

「深津先生、僕のどこが久保田さんに劣ると言うのですか!」

加倉井の暴言が続く・・・

「なにを言っている君は、君のどこが薫くんに優ると言うのだ!」

加倉井と芝DRの、応酬にオズオズと割って入った諒一は

「あの〜ぅ! 抱っこされたのは僕です!でも深津DRにじゃ無いですよ!」

芝DRの怒りの問いかけに答えたのは諒一だった。

「な・なん・何だって! じゃぁ先生お姫様抱っこで、ここに連れ込まれたのか?」
傍観を決め込んでいた、清和の慌て振りは凄かった、

「うん、廊下で転んじゃって、足を軽く捻挫したようだから、結城さんに、ここまでつれて来て貰ったんだよ!」

自ら墓穴を掘ったことに気付いていない諒一である。

「えっ〜!じゃ何故ここに深津先生が居るの?誰を、何処に連れ込んだの!」

錯乱している加倉井を捨て置いて!

「薫、連れ込まれたのは君じゃないんだな!」

芝DRが、大切な薫に確認を取っていた・・・

三者三様の欲望と憤怒が渦巻く中で・・・

「じゃ〜あ! 何故、先生はパジャマを開いているんだ!足を捻挫しただけで!」

己の怒りを抑えながらも抑えきれない思いが口をついて出る、

「転んだ時に、胸部を打っていないか、触診してくれるって深津DRが、言ってくれたからだけど・・・」

『触診』その言葉が引き金になって・・・周りの空気が一層、冷たく張り詰めた。

諒一の身体を、誰にも触れさせたく無い清和である。

普段の回診時には、

必ず諒一に付き添い傍で、不埒な真似をしないか目を光らせていたのだ。

それなのに、時間外に触診するなんて嘗めた真似を・・・・

もう、我慢の限界だった!

「芝DR、先生はもう退院しても良いだろ!」

命令口調で、深津DRではなく、芝DRに切り出した。

こちらの方が、話が早いと踏んだ清和の考え通り

「そうですね・・・氷川DRがこの病室に居ると、私の薫くんも危ないようですし、直ぐに退院していただけますか?」

芝DRの鋭利な言葉に、

「解った直ぐに退院するとしよう!」

二つ返事で清和は事を決めてしまった。

そんな、清和と芝DRに

「な・何を言っているのですか? 氷川DRの主治医は僕ですよ! まだ退院するのは早すぎます。もう少し様子を見ないと!」

話に割って入った深津DRに対し

「お前の側なんかに、俺の大切な女房おいて置けるか!」

苛立たしく鋭い眼光で睨みながら吐き捨てた清和に!

「同感ですね、薫くん、こんな危ない職場は、即刻寿退社して、早く専業主婦になって下さいね」表情も変えずに冷ややかに言い切った、芝DRの台詞に、声も上げる事も出来ず深津DRは撃沈されたのだった。

深津DRがカモフラージュに薫を使っている事は知ってはいるが、芝DRにすれば気分の良いものじゃない、だからこれ幸いと、カミングアウトをして、己の主張を通し、深津DRを遠ざけようとしたのだ。

話の展開は解らないが・・・歓迎されていない空気を読んだ結城は、

『またこの人に出会えるチャンスはあるだろう! 残念だが、今回はここまでという事だな、まぁ抱き抱えられただけで良しとするか』心の中でこんな事を思いながらも、名残惜しそうに諒一を、熱い眼差しで見つめてた・・・・

清和は、目障りな結城に見せ付ける様に!

「さ〜ぁ、先生! 家に帰りましょうか!」

「えっ!清和くん僕退院できるの?」

この場の雰囲気を、全く解っていない諒一は的の外れた発言をしているが

「そうです、退院許可が下りました。今直ぐ退院ですよ先生!」

諒一に優しく微笑み掛けながら、答えた清和は振り返り

「リキ、後の事は任せたぞ!会計そして先生の荷物、抜かりの無い様に頼む」と、

リキに言うと、清和は懐から自分の財布を投げ渡した。

その財布には、帯封の付いた札が入っていると言っても過言では無いほど分厚く膨れ上がっていた。その財布を受け取ったリキは

「解りました、清和さん。後始末はお任せください」

リキが、答えている最中に清和は、

諒一を横抱きに抱いて俗に言う『お姫様抱っこ』で病室を颯爽と後にした。

 

 

真鍋組第三ビルの最上階の住居に二人は帰り着いていた。

諒一を、無事に連れ帰った清和が、リビングのソファーに諒一を静かに座らせようとしていると、部屋の中を嬉しそうに見渡している諒一の表情に清和が目を留めた。

「如何したんだ、先生。家がそんなに懐かしいか?」

ぶっきらぼうに問いかけた清和に

「うっ〜ん・・・、僕もう、この部屋には帰って来られないと思っていたから・・・」

諒一の、思ってもいなかった台詞に声も無く立ち尽くす清和であった。

「清和くん、どうしたの?顔色悪いよ、僕を抱いているのに疲れたのかな?大丈夫!」

清和の胸中を理解していない思い人は、心配げに顔を覗き込んでいた。

「いいや、先生が無事に退院できて、ホッとしただけだよ!」

清和の答えに満足したのか、諒一は隣に座る清和の肩に頭を預けていた。

「先生、何故?あんな奴らが! 先生の病室内に居たんだ!」

優しくそれでも、それでも抑え切れない思いを込めて問いかけた清和に

「売店の側で、結城さんに偶然会って、いらなくなったって言う花束頂いたんだ。

それを久保田さんと、深津DRにお裾分けしようと思って、取りに来て貰ってたんだけど・・・」

状況を理解していない天然の諒一がのほほんと答えている所に

「先生、あれ程病室から出るなと、ショウが念を押した筈だが!」

この清和の台詞に、ショウに『部屋を出るな』と念を、押された言葉を今、思い出したのだ・・・目を見開いた諒一に

「その様子だと、今頃、思い出したようだな!先生」

清和の呆れた響きの声音を、諒一は黙って聞いていた・・・が!

「だって・・・退屈で、散歩にでも行こうかと、売店に行っただけだよ!」

自分の正当性も主張しないと、の思いから言葉を返すと!

『売店に行っただけで・・・危なそうな飢えた狼を二匹も連れて帰ってくるのか!

俺の子羊は・・・・』眩暈がおきそうな気分の清和だった。

「先生、約束してくれ!」

清和の、思い詰めたような表情に

「何を?」

「今後、俺の言い付けには、絶対に従って欲しい!」

「えっ、何・・・?」

「今回の様に、俺の言い付けを守らなかった場合は、今後一切、俺が側に居ない時は

この部屋からは出さない!解ったな?」

清和のキツイ命令口調の申し渡しに諒一は静かに頷いた

「清和くん、解ったよ。今後、清和くんの言い付けは守るよ。それで良い?」

「あーぁ、約束を守ってくれればそれだけで良い!」

ホッとした表情に、戻ったかとも思われた清和の顔付きは、今度は欲望を含んだ表情に豹変していた。

「先生、久しぶりだ。早くベッドに行こうぜ! 抱いてやるから、先生も抱いて欲しいだろう俺に!」

俺様的な、清和の台詞に

「うん、清和くん、お願い抱いて!」

甘い声で囁いた諒一を腕に抱いた清和は、寝室へと足を運んだ。

縺れる様にベットに倒れこんだ二人は貪るようなキスを交わしたのだった。

その合間に清和が・・・

「あんな奴の居る、宝石店何かに先生を連れて行かなければよかった・・・」

そう呟いた、清和の眼光は何時もより深い輝きを放っていた。

長い指先で、シャツを開けさせている清和の目は、一点を凝視している。

諒一の身体を、気遣いながらも・・・

清和は身体を屈めて執拗に優しいキスを落としていた。

愛しい諒一の身体に、植え付けられた痛ましい傷痕を今度は、指先でなぞりながら

『二度と、こんな傷は付けさせない。何があっても先生を守り抜かなくては。

再び先生が危険な目に遭い命を絶った時は、俺の人生もそこで幕を閉じるだろ!

だから、何が遭ってもこの人を守り抜かないと、俺は先生を離せない!』

己の誓いも新たに清和は、諒一の下肢から邪魔な衣類を剥ぎ取ると、足を大きく開かせその中心に芽吹いている諒一の欲望に、生暖かい息を感じさせた。

「あっ・・・」

諒一が漏らした吐息を合図に清和は、尖らせた舌先で蜜を湛えている部分を刺激しながら、欲望を指に絡ませ優しく律動させ始めた。

「・・・あっ・・・んっ・・・せ・せいわ・・・くん・・・」

悩ましい声を上げている諒一を攻め立てた。

普段慎ましく清楚な『日本人形』が、巧みな手淫に翻弄されて、艶を帯び妖艶に乱れ

る姿を、清和は凝視していた。

諒一は、声を抑えることも出来ないまま、無理な体勢で清和に両手を差し出した。

「せ・・・いわ・・・く・・お・・・いで・・・もう・・・・」

諒一の声に、身体を起こし、その両手の中に納まってくれた清和を愛しく抱きしめた。

「せいわ・・・くん、はやく・・・おいで!」

再び、清和を煽る台詞を口にして諒一は、清和の雄の証へと手を触れた。

そこは既に、膨張して・・・もはや臨戦状態になっいる。

開放の時を今か遅しと、待ち望んでいるようであった。

清和は、諒一の身体に負担が掛からないように注意しながら・・・

諒一の秘所に、己の先端を当てると・・・ゆっくりと諒一の中へと押し進んだ。

「先生、大丈夫か?」

心配そうに己の欲望よりも、諒一を気遣う清和に

「う・・・・ん、だ・だい・・・じょうぶ!」

「本当に、大丈夫なのか?先生!」

「いいから・・・せいわくん・・・」

久しぶりの、清和にもたらされる圧迫感に体は悲鳴を上げていたが・・・

心は充たされている諒一である。

「ほ・んと・・・だいじ・・ょう・ぶ・・だ・・から・・・」

息も絶え絶えな諒一に気遣いながらも、欲望を埋め込んだ清和は

「先生!」

「あっ・・・清・和・くんが、僕の中に・・・」

苦しい中でも、嬉しそうに囁いた諒一に

「・・・いいか?動いても・・・」

清和が、苦しげな声を上げた。

「いいよ、清和くん・・・動いて!」

その言葉にベッドは激しく動く清和にしたがって軋んだ音を奏で出した。

「んっ・・・あっ・・んんっ・・・」

「先生!気持ちいいか?」

「清和くん・・・すごく・・・き・・もち・・いい・・・なんで・・・」

身体の底から導き出される快感に、諒一は為す術も無く翻弄されていた。

「う・・・んっ・・・も・・・う・・・」

「先生、俺も限界だ・・・」

清和の切なげな声音に、貪欲に貪っていた快楽にあっさり別れを告げ。

諒一は、己の欲望を清和の掌中に解放した。

時を、同じくして清和も、諒一の最奥に己の欲望を注ぎ込んだのだった。

「すまない、無理をさせた。大丈夫か先生!」

「うん・・・だい・・・じょう・・ぶ・・・だよ・・・」

息も絶え絶えに答える諒一を抱きしめて、ほんのり顔を赤らめて清和が囁いた言葉は

「諒一、愛している」

諒一の耳元に優しいバリトンで囁かれた清和の言葉に、

胸が締め付けられるような歓喜の渦にのみ込まれた諒一であった。

普段は『先生』と詠んで・・・昔みたいに『諒にいちゃん』と呼んでと言っても、「手前の女房を『諒にいちゃん』とは言いたくない」と言って、名前で呼ばれる事はまず無いのだ、その清和が『諒一』と名前で呼んでくれたのだ!

「清和くん、もう一度呼んで・・・!」

「愛している。一生、俺は諒一を離さない!」

その言葉に込められた思いに、頬に涙をひとすじ流した・・・諒一は

嬉しそうに清和を見上げて微笑んだ。

清和も、またその笑みに導かれるように、優しいキスを諒一に落としていた。

 

 

後日・・・・

明和病院の外科外来の診察室では

「もう、心配ないでしょう。本来なら、今日で退院の筈なのに!」

深津DRの、優しい笑いを含んだ声が聞こえていた。

「済みません・・・」

申し訳なさそうに答える諒一の後ろから

「先生、謝ることは無い。退院の許可は貰っているのだから」

深津DRを、威嚇しながら清和が冷たくはき捨てた。

「はいはい、そうでした。退院許可は出ていましたね!」

「そうだ、許可が出た時点で退院したのだ。文句を言われる覚えはない!」

「解りました、お二人で新婚旅行でも、湯治でも・・・お好きな所へ、お出掛け下さい。」

深津DRの、投げ遣りな言葉にも顔の綻ぶ諒一は

「ありがとうございました。」と、嬉しそうに答えていた。

深々と頭を下げた諒一に対して、清和はそ知らぬ振りで、診察室を後にしのだった。

「清和くん・・・待って・・・」

慌てて清和を、追いかける諒一の姿に声を上げて深津DRが笑っていた。

 

一方、廊下では

「先生、どこに行く? 新婚旅行に行くか? それとも温泉に湯治にでも行くか?」

清和が楽しげに、諒一に語りかけていた。

取り留めの無い会話が出来ることが、一番の幸せだと感じる二人は楽しそうに廊下を歩いていたのだった。

再び手にすることが出来た、喜びを噛み締めながら・・・・




END



ここまで読んで頂いて感謝です〜☆


この続きは『Wedding総集編vol 2』に収録してあります。