熱視線


何をそんなに震えて、唇噛締めて
何かに怯えたように……肩を……ひとり…
抱締めているのは…




寝惚け眼で恋しい人の温もりを探して

彷徨う手、この腕に抱え込んでいた温かさが…消えていた。

ふと何気に、窓辺の方に視線を巡らすと僅かに開いた

カーテンの隙間から、柔らかな朝陽が差し込んでいる。

其のカーテンに身体を半分隠す様に……。

其処に佇んでいる、人影に香藤は眼を瞬かして見詰めた。

その人影は最愛の人だった。

昨夜から明け方まで抱締めて離さなかった人…その情事をその肌に残している。

透きと通った白い素肌に幾つかの印が鮮やかに浮いてい、

艶やかな漆黒の髪が乱れている。

火照った肌を覚ますかのように、何も纏わずにただ其処に・・・

朝の光のベールだけを唯一纏って輝いていた。

香藤は其の姿に見惚れ優しい視線を向けて微笑んでいる。

長い期間、岩城をこの腕にこの胸に抱けなかった思いを、

其の肌に身体に思いを乗せて抱いた人…

光を身体に受け影さえも美しく一つの絵画の様である。



香藤の柔らかい視線が何時しか熱い熱を持った視線に変わった。

岩城は背中に感じそれに、ゆっくりと振り向くと其処に、

柔らかい微笑を湛えた香藤の顔がある。

瞳に宿した熱視線を感じて岩城は其の視線に絡み取られた様に動けない。


香藤はゆっくりとベッドから降りて、岩城に近づていく。

「おはよう、岩城さん、何時から起きていたの?」

「ぁ…」
少し掠れた声が喉に痛みが走ると顔を顰めてしまう。

「無理に声出さなくてもいいから」

腕を伸ばし岩城を抱締められ香藤の触れる温かい胸に抱きこまれて

初めて岩城は自分の身体が冷たくなっていた事に気が付いた様だ。

香藤はそんな岩城に苦笑いをして、シャワールームに行くように

声を掛けた。







「岩城さん、あんな早くから・・・それも何も着ないで・・・
風邪でも引くと大変でしょう」

「今日、帰るとまた、あの持宗監督…条件…孤独、餓えを…」

言いかけている岩城に香藤は思い出して、

「岩城さんはそれを取り戻そうと…身体と頭と心を冷ましてたてこと?」

香藤の答えに岩城はただ頷いた。

満たされる事を良しとしない、今回の岩城の役、上蔀だけの役では満足しない監督。

岩城はそれを、総て消し去ろうとしていたと。

日本に帰ってもこの仕事が終わらない限り、常に餓え孤独を抱きかかえていないと。

人肌の温もりを早く自分から追い出すように勤めた。




一足先に帰る岩城達を空港まで見送りに着ていた香藤は岩城に熱い視線を向けていた

岩城も其の視線を背中に感じながら搭乗の入り口へと消えて行く。

香藤もまた岩城の姿が見えなくなるまで本当に熱い熱い熱視線を送り続けた。


おわり  

読んで頂きまして、ありがとう御座いました。m(__)m


「プレシャス・シート」の後、香藤くんの部屋での一夜の後のことです。
何となく岩城さんなら、香藤くんとの情事の後を今回役の為にこんな感じで・・・
切り替えをしたのではと思っただけです。
岩城さんは不器用な所と器用な所があるから、・・・と勝手な事を思
いついた私です。(^^ゞ

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