夏祭り


其れは、俺たちの休みを狙った様に、サイドテーブルに置いてある携帯が鳴り出した・・・・・・が、無視を決め込む。

やっとの思いで、もぎ取った休み。

今日から三日間の岩城さんとゆっくり過そうと目論んでいた香藤だが・・・・鳴り止まない着信音。

いくら小音にしていても、側で寝ている岩城が起きるかもしれないと思い仕方なく、携帯に手を伸ばす。

「解った、じゃ、後でな」

朝早く携帯で叩き起こされた、香藤はもう一度、寝直した。





―――――――☆

洋子に呼びつけられて、実家の近くの夏祭りに行くことになった。

岩城といちゃいちゃと過したかったのを見事に邪魔されて、少々不機嫌の香藤である。

其れと対象に岩城は中々逢えない洋介や香藤の家族の顔か見られた事に満足をしていた。


参道を歩きながらぶつぶつ言っている香藤がつい洋子に文句を言った。

「まったく、折角取った休み何だど! 」

「別に良いじゃないの、可愛い甥っ子の為にねお・じ・さん!」

「誰が、お・じ・さんて、呼ぶな・・・たくぅー・・・・ほんとに・・・久し振りに、岩城さんとゆっくりしたかったのに・・・・」

「何言ってんだか、諦めて、私達に付き合いなさい!」

「だからこうして、付き合ってるじゃん!」



「こら、洋介、手を放したら駄目だろう・・・迷子になるから」

「はーい」

千葉の実家の氏神様の夏祭りで夜店が幾つもたち並んでいる。

その中で金魚すくいのお店を見つけた洋介が、走り出したのだ。

可愛いキャラクターの模様の浴衣を着せて貰った洋介は大好きな母親より

たまにしか逢えない香藤と岩城に手を繋いで貰っていた。

「こら、先に参拝してから、後でお店を廻ろうね」

岩城の優しい声で洋介はにこにこしながら岩城に甘えている。

「じゃ、後にするね」


色違いの浴衣を着、岩城と香藤に良く似た女性の浴衣姿は人目を引くが遠巻きに観ているだけで、

取り立てて騒ぐ事は無かった。


香藤は今回は大人しくしている。

洋介の手前カッコいい姿を見せたいなだろうか。





鳥居の手前で清めの水で手と口を清めた。

そして、鳥居の所で岩城は腰に手を当てて親指を折り曲げて隠して、

軽く一礼をしてその後深く二礼してから二拍手してから鳥居を抜ける。

すると香藤は岩城に聞く。

「ねえ、岩城さん今のは何か仕来りが有るの?」

「そうなんだ、普通は知らないと思うが・・・、俺の家で教えられているから、

家に神棚がちゃんと祭られているからな。作法も子供のときから教えられたからな」

香藤と洋子が感心して聞いていた。その側で洋介はきょとんとしていた。

普段は馴染みの無い作法に本格的な参拝の作法に周りのものが見惚れていた。

そうなのだ、岩城の流れるような作法に・・・・。


神殿の前に来た岩城達がお賽銭を入れると、洋介はがらがらと鈴を鳴らす。

そして、先ほど岩城が行なった作法でお参りして、願い等を祈った。

祈りが済んで、二拍と深く二礼をして神殿を後にした。

ここでも、洋子が聞く。

「岩城さんお祈りした後でも、拍手や礼をするの?普通は余り見かけないけど・・・」

「そうだね、でも、洋子さんや香藤でも、他所の家に行ったら、御免下さいとかお邪魔しましたとか
お礼を言って帰るだろう。それと同じなんだよ」

「なるほど、言われてみれば納得です。岩城さん」



「ねえ、早く向こうで何か買って」

「はいはい、洋介もちゃんとお参り出来たからね」






洋介の頭には男の子に人気のキャラクターのお面と手には綿飴と焼きともろこしの袋をぶら下げている。

岩城は仲の好い兄妹に眼を細めてる。

香藤はともろこしを頬張りている。

「洋子のたこやきも美味しそうだな・・・これと交換な」

洋子の持っているたこ焼きと焼きとおもろこしを無理やり交換する香藤であった。

それを観ていた岩城は自分と歳の離れた兄の間では無かった光景だった。

岩城の欲しそうな物を兄が買ってくれたから。


「ママ、あれしたい。してもいい?」

洋介の指の指す方向には、金魚すくいのお店だった。

洋子は洋介の目を見ながら聞く。

「金魚? 洋介、金魚すくいたいの?」

洋介も母親の目を真剣な顔つきで聞く。

「だめ?ちゃんとお世話をするからね。ママ」

香藤は洋介を煽るような言葉を投げかけた。

「洋介、金魚すくいは、難しいど。やった事が有るのか?」

「うん、前にしたよ。パパに連れて行ってもらった。洋ちゃん。パパ上手いんだよ金魚すくい、だからパパに教えてもらっんだ」

胸を張りながら言う洋介に香藤はにゃっと笑い。

「じゃ、俺と洋介とどちらが、たくさん金魚をすくえるか競争しょか?」

「うん、やる。負けないよ、洋ちゃん」

「おっし、今の言葉忘れるなよ、負けて泣くのも駄目だど! 約束な」

「うん、僕、頑張るもん!」



―――――――☆


「洋介、準備はいいか?・・・ポイが破けたら負けだど・・・」

「うん、でも・・・ポイの交換3回までにしてくれる?洋ちゃん・・・ダメ・・・」

「2回までだ!」

「・・・・う・・わかった」

夜店が並ぶ端っこに、出ていた金魚すくいのお店で、割と人も少なくって此処なら目立たないだろうと、決めたのだが。

賑やかな、ご一行に、目立たない訳がない、遠巻きにギャラリーが増えていく。(知らぬが仏?)

そんな、周りが気に成るわけでもなく、金魚すくいのゲームに夢中のふたりと、それを見守る様に側で見ている洋子と岩城である。

岩城は香藤に相手は子供なんだから、余りむきにになるなよと耳打ちをしていたのだが、

手渡されたボールとポイを手に洋介は、赤、黒、まだら、出目金、大小様々な金魚の群れのある場所に陣取った。

香藤は水面近くを泳いでる金魚に目をつけているらしい、そして、ポイを斜めに水に浸し金魚が通るのを待ち構えているその姿は、

二人とも真剣な顔つきで金魚を見ていたのだ。

洋介は金魚の群れ近くからポイを浸けて、そっと、狙い定めた金魚にポイを近づけて行くとその赤い金魚が洋介のポイを飛び跳ねて行く。

「あっ、逃げられた・・・もう」

断念そうな顔をしている顔もまた可愛い洋介である、そこに、洋介より少し大き男の子がなにやら洋介に耳打ちをしている、

洋介も頷きアドバイスを聞いている

そして、ポイを持った男の子は手本だとばかりに金魚をすくい始めた。

ボールの中にポイ、ポイと2匹入れたのを洋介が感心して見ている、側で居る岩城と洋子も感心している。

すると面白くないのが、香藤である。(爆)

何とか一気に3匹は確保しないと面子が丸つぶれになる。

じりじりと金魚の群れがあり尚且つ、水面近くを泳いでる目ぼしい金魚にターゲットを決めて浸けているポイ近くまで泳いで来るのを待って、ポイで救いあげる。

何とかそうそて、2匹めも救いボールに入れた、ポイが少し敗れてきていたがもう一匹何とかすくう事ができるから取り合えず、小さめの金魚を狙う。

黙って見ていた岩城だが、

「香藤、そのポイではもう出来ないだろう?」

自分の頭の上から覗き込んでいた岩城の声に、頭を上げて応える。

「まだ、大丈夫だよ、いけるから、見ててね、俺の腕捌きを」

「お、にいちゃん。がんばれよ」と後ろにいたギャラリーの人の声が掛った。すると香藤も「うん、見ていてよ」と云う香藤であった。

洋介の応援に先ほどの男の子とその親らしい人と数人が洋介の後ろで見ている。

洋介のボールの中にも黒い金魚と白っぽい金魚が入っていた。

「おっ、中々、偉いぞ、坊主」と大人の声に、洋介は「坊主じゃないよ、洋介だよ」と言っている。

そして、洋子は「すみません、生意気で・・・」と頭を下げて云うと「この位の年の子供は、そういうもんだから気にしていないから」といって

洋介たちの様子を微笑ましく見ていた、すると、洋介よりも小さな女の子も「私も、すくいたい」と親に強請っている。

最初にうちは、香藤と洋介との二人の金魚すくいが、今は、大人の香藤と後は子供達だけである。

何となく大人が其処に入りにくい雰囲気になっていた。




子供同士が何時の間にか仲良く金魚すくいに夢中になっていたが、洋介のポイに大きな穴が開き終了になった。

「あっ、も少しだったのに・・・悔しいーーーねえ、洋ちゃん、あのね、もう一回勝負しようよ・・・」

香藤も夢中に金魚すくいをしていたので、洋介からの、要求が聞えていない。

「おい、香藤。もう、その位で良いだろう、洋介のポイに穴が開いたから終わりだ」

香藤の肩を叩きながら言う岩城であるが、

「うん、判った、もう少しだけ待って、今、これすくうからね」

顔も上げずに、金魚に目線を向けたまま応える香藤に岩城は嘆息つくと洋子も、

「お兄ちゃん!。もう〜っ、子供みたいなんだから・・・」と呆れている。

洋子と岩城は、お互いに顔を見合わせて、も一度深い溜息をついた。

「あっ! もうごちゃごちゃ煩い事を言うから集中出来ないじゃないか!。も少しだったのに、逃げられたじゃないか!」

二人に向って下から睨みあげる、香藤だが、逆に岩城と洋子に睨み返されて、しぶしぶ諦めた香藤だった。

「おい、洋介!。何匹すくったんだ」

「3匹だよ。洋ちゃんは?」

「俺はも3匹だ、外野が煩いから、最後の1匹を取り逃がした。もうちょっとだったんだど」

言いながら、立ち上がり後ろを向くと大勢の人人に、香藤はびっくりしている。

その中でも岩城に目を向けている人も居たのだが、まさか、此処で騒ぎ立てる事もできずに、

すくった金魚をビニール袋に入れてもらい、岩城の肘を捕まえて

早足に家に急ぐが、子供の足では無理が有るので、洋介をひょいと担ぎ香藤の肩に乗せる。肩車をして家路に急ぐ。





―――――――☆




香藤の肩から下ろされた、洋介は元気な声で言いながら玄関のドアを開けながら大きな声をだした。

「ただいま〜〜。おばあちゃん。おじいちゃん。」

「お帰り、楽しかった?、洋介」

「うん、凄く楽しかったよ、これ見て、おばあっゃん」

金魚の入ったビニール袋を自慢げに掲げて見せる、洋介に香藤の母親は眼を細めて、ニール袋に目を向けながら、

「沢山すくったのね。偉いわねー洋介は」

感心しながらニール袋に入っている金魚を見ているとその横からぬーっと差し出されたニール袋にも金魚が入っていたので

振り向いた香藤の母親は、香藤の顔を見ながら聞いた。

「洋二も金魚すくいしたの?」

「ああ、洋介と競争したんだ。なっ洋介」

「うん、洋ちゃんと同じ数だよね。おばあちゃん。ねえ、おじいちゃんにも見せるね」



―――――――☆


リビングでは洋介が夏祭りに出かけた話を香藤の両親に聞かせていた。

香藤家にとって外孫だが初孫だから、洋介の話をきちんと聞いてくれるのが嬉しいようだった。


目を擦り出した洋介に洋子がさっさと風呂に連れて行った。




「洋二も子供みたいに、むきになって、洋介と張り合ったのだろう」

香藤の父親が香藤に聞くよりも岩城に聞いたので、香藤が口を尖らしてぶつぶつ云っていた。

「幾つになっても・・・まだまだ子供な所が残っているから、岩城さんも、大変だろうが、洋二の事頼みます」

頭を下げる、香藤の父親に岩城は、

「そんな、今日は特別ですから、何時もは確りしていていますから」

香藤は岩城の言葉に今にも飛び掛ろうとしていたが、風呂から上がってきた洋介に、

「岩城さん、僕と一緒におねんねして」とせがむ洋介に

「だめだ、俺の部屋で寝るんだから・・」

「どうして、駄目なの?・・・僕・・・岩城さんと寝られるの楽しみにしていたんだよ」

洋介の目で助けてと合図を送ると香藤の母親が、

「今夜ぐらい、洋介の気持ちをきいてあげなさい」

「そうだど、お前も子供みたいな事を云わずに、洋介の頼みを聞いてあげなさい」

両親に云われしぶしぶ承諾した香藤だった。




―――――――☆



香藤は一人自分の部屋のベッドで大の字になって天上を睨みつけていた。

「なんで同じ家に居るのに離れて寝ないとイケないんだ・・・まったく・・・仕事で離れて居る訳じゃないのに・・・

俺たちの家に帰ったら・・・むふふ・・・・」

香藤の文句も怪しい笑い声も虚しく暗い闇に飲まれていく。




―――――――☆おわり


2006/7/19           BACK