「事始・初笑い」
   元旦。

今年も静かに、始まった。

岩城の実家に出入りを許されてから一年おきに正月は岩城、

香藤どちらかの実家で過ごすようにしていた。

今年は香藤家の番だ。

大晦日、明治神宮あたりに初詣と行きたいところだが、

岩城と香藤のツーショットで人ごみの中に現れようものならただでさえ

混雑している場所がパニックになりかねない。

まあそれだけの人気を誇っていることは芸能人としては嬉しいところだ。

かといって、一緒に出かけた香藤家の面々に迷惑をかけるにも行かず、

深夜のうちに近所の神社で済ませてきた。

初日の出も上がりきり、朝におせちと酒を囲みつつ、新年の挨拶をかわしたら、

誰が選んだかわからないテレビ番組をつけっぱなしに全員でボーっと

見入るぐらいしかすることがなくなるものだ。

昼過ぎには、一人、また一人とこたつから出て、岩城と香藤も今は半物置と化した二階の

香藤の部屋にしけこみ、現在にいたる。

平穏な正月、静かにゆったり流れる時間。

ちょっと窮屈めのかっての寝床に香藤は寝転び、その脇で岩城は読書をしていた。

毎日、忙しい二人にとってこんな贅沢なことはない・・・はずだった・・・。

―しかし、退屈だ。

「岩城さーん、何かしようよ」

「何かって何だ?香藤?」

「正月と言えば凧あげでしょ、羽根突きでしょ、コマ回し?」

ハードカバーをパタンと閉めて、岩城はため息をつく。

「そんな事は近所の子供とやればいいだろう?そうだ洋介くんに付き合ってもらえ」

「俺は、岩城さんと何かしたいの。なんで子供と・・岩城さんとなにかするの〜」

枕に顔を埋めて手足をバタバタしている香藤はまるで駄々っ子のそれだ

「はあっー。何かその押入れにないのか?ほら、年末の冬蝉スタッフとの

忘年会で当たったゲームとか持ってきたんだろ」

「あっ、そうっか」

香藤はクローゼットの中に頭を突っ込んだ。

「黒ひゲイ危機一髪、人生ゲームM&A編、福笑い、あっ、カルタもあるよ。

岩城さんどれにする?」

「福笑い」

「なんで、一番地味なものを選ぶのかな?岩城さんは」

「それだとお前が一人で遊べるからだ」

「酷いよ〜」

香藤は口を尖らせて岩城さんの方に振り向く。

「こら、頭に埃がついてるぞ」

そういって岩城は香藤に近づき、香藤の髪に触れた。

「うーっ、ねえ、他のにしよう。岩城さん」

「そうだなあー」

岩城もガラクタの中を物色する。

「百人一首の詠み手をやってやるから、お前が取れ」

「嫌だよ。そんなの古文の時間みたいで。あっ、同じ札なら花札しよう」

「花札はお前が得意なだけだろう。で、香藤が勝ったら俺に何でも言うこときいてとか

言うに決まってる」

「なんで、わかるの?」

「そりゃ、香藤のことならなんでも知ってるからな。お前以上に」

「岩城さん・・・」

香藤を黙らすのはちょろいなと岩城は可笑しかった。

「わかった。福笑いでいいよ。やろう!俺が先やるから目隠し用の布になるもの一階に

行って貰ってきて」

「しかたないな。手拭いでいいだろ?」

岩城は香藤の策略も知らずに、一階に下りて言った。

         ☆

「では改めまして、福笑いを始めさせていただきます」

香藤は手拭で目を隠したという間抜けな姿で、岩城の前で正座して頭を深々と下げた。

「?。それは何の挨拶だ」

「岩城さん福笑いの始まり始まり・・・」

目の前に広げたおかめのパーツと輪郭が描かれた紙を横へ寄せると、香藤は岩城に

四つん這いで接近してくる。

「香藤?」

「目でしょう、鼻でしょう、ちょつと下がって乳首、そしてお臍・・・でもって

ここが岩城さんの・・・」

「何で、俺をまさぐっているんだつ。バカッ」

香藤はゴンと今年初めての岩城の拳固を頭に食らった。

「えへへつ。お正月だもん、福笑い。ちょつとついでに姫はじめ?」

「陽の高いうちから何考えてる。このエロ犬は」

「なんかドキドキする。ここでやった事、今まで無かったもんね」

「勝手に盛り上がっていろ」

岩城は香藤に捲しあげられたセーターを調えると立ち上がった。

「あれっ?岩城さん?」

「俺は一階に行って、森口さんの代わりにお義父さんの酒の相手をしてくる。

お前は遊郭遊びするお大臣ごっこを一人でやっていろ」

「あっ、やってやって、鬼さんこちら手のなる方へって」

「そんな馬鹿げた事に付き合ってられるか」

「待って、岩城さん」

立ち上がって両腕を伸ばし岩城を探して香藤が歩き回る。

カーペットの継ぎ目足が引っかかって倒れかけた時・・・。

「バカ、危ないだろう。本当にお前は・・・まったく・・・」

岩城がしっかりと香藤を抱きとめた。

「ありがとう岩城さん。で、捕まえたっと」

そのまま香藤は岩城をベッドに押しやり、二人なだれ込んだ。

「お前、よくも」

「岩城さん・・・つ・か・ま・え・た」

香藤は目隠しを取ると岩城の唇を奪った。

「ウッ、かつ、かと・・・」

口付けは深くしっとりと、岩城の逃げる舌を追いかける。

抵抗は初めのうちだけ。

熱い香藤の欲望に岩城も溺れていくのは時間の問題だった。

「いわ・・・きさん、ねっ、いいでしょ?」

「フッ、アッ、ア・・・フン」

「岩城さんもその気になってくれた?」

「バ、カ・・・アッ」

不埒な手と唇を岩城の体に這わせて、岩城を激しく煽っていくつもりの香藤だったが、

快感の波にさらすはずの岩城が急に香藤の体を押し戻し始めた。

「やっ、止めろ、香藤。非常事態だ。ほんとにまずい。早く離れろ。洋介君がつ」

「何言ってるの岩城さん、ココもうこんなになってるよ。俺だってほら」

岩城の足の間をなぞった後、自分の股間に岩城の手を当てた瞬間・・・。

「洋二何してんの?」

―洋二?

香藤が声の主を見ると、洋介がベッド際にぽつんと立っていた。

              ☆

「あれっ、洋介、昼寝じゃなかったのか?」

「おひるね、あきちゃつた。洋二何して遊んでたの?」

「プッ、プロレスだ。プロレスだよ、ねえ、岩城さん」

「そう、プロレスだ。プロレスだよ、洋介君」

洋介は不思議そうに首を傾けていたが、納得がいったように、ニッコリと笑う言った。

「プロレス大好き。洋介もやる。もとやチョーップ〜」

セーターと肌着を脱いで洋介が香藤に戦いを挑んできた。

「おっ、やるな洋介。じゃあ岩城さん必殺技・M字開脚固め」

「きゃつ、きゃつ、ギブ〜洋二。洋ちゃんもうだめ〜」

岩城はさっさとベッドを降り、頭を抱えて香藤と洋介眺めていた。

「まだまだ。ほらこい洋介」

カモーンと香藤が手招きすると、洋介は次の技を繰り出した。

「いくぞ洋二!えいちじフォー」

「セイセイセイ!腰使いじゃ、誰のもこの洋二様に勝てる人はいないんだぞ。フォー」

洋介と香藤が並んでベッドの上で腰振り競争をしている。

―誰かこの二人を止めてくれ。

岩城がそう祈ったとき、パタンとドアが派手な音をたてた。

「何してんの、二人とも」

洋介を探しにきた洋子が見たものは、上半身裸の洋介と、ボクサーパンツしか身につけて

いない香藤と着衣はあるものの髪の毛が乱れた岩城の姿だった。

「げっ、洋子・・・」

「ゲッ、じゃないわよお兄ちゃん・・・早くその恥ずかしく膨らんだもの仕舞いなさいよ」

般若の面を被った洋子が香藤を睨んでいる。

「岩城さんも・・・最後の理性ぐらい死守してくださいね」

殺人ビームは岩城にも飛んできた。

「面目無い、洋子ちゃん・・・」

「いくわよ洋介」

「いやだ、まだ洋二とプロレスするの〜」

洋子は洋介を抱き上げて一階に下りて行った。

        ☆

香藤洋二、またしても香藤家での姫初め失敗。

岩城京介、もう二度と香藤家で香藤に流されるまいと固く誓う。





2006/1/8

祭様に。初めておねだりをして、書いて貰いました。

楽しい?どたばたの岩城さんと香藤くん
姫初めならず。(爆)
洋子さんにはたじたじのおふたりが・・・
案外、春抱きで最強なのは、洋子さんかもしれませんね。

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